EQで音が痩せる?不自然になる?あなたの悩み、わかります
DAWで一生懸命ミックスしているのに、どうも音がクリアにならない……。よし、EQで調整しよう!と思って試してみると、なぜか音が細くなったり、なんだか不自然な音になってしまったり……。
そんな経験、ありますよね。私もDTMを始めたばかりの頃は、同じ悩みを抱えていました。せっかくかけたEQが、むしろ音を悪くしているんじゃないかと感じることさえありました。
でもご安心ください。この記事では、なぜEQをかけると音が痩せてしまうのか、その本質的なメカニズムから、音を壊さずに整えるための実践的なアプローチまで、音脳ラボが徹底的に解説します。
今日からあなたのミックスが劇的に変わる、判断の軸と具体的なテクニックを一緒に学んでいきましょう。
なぜEQで音が痩せてしまうのか?その本質的なメカニズム
EQをかけると音が痩せたり、不自然に聞こえたりするのには、いくつかの音響学的・物理的な理由があります。
闇雲にEQを操作する前に、「なぜそうなるのか」を理解することが、適切な調整への第一歩です。
1. 相対的なバランスの変化とマスキング効果
EQは、特定の周波数帯域の音量を上げたり下げたりするものです。しかし、これは音全体の絶対的な音量を調整するのではなく、あくまで「特定の帯域の音量を相対的に変化させる」ということを忘れてはいけません。
例えば、ギターの音を明るくしようと高音域をブースト(持ち上げる)しすぎると、相対的に中音域や低音域の存在感が薄れてしまいます。
その結果、音が「細く」聞こえたり、密度が失われたように感じたりするのです。これはマスキング効果とも深く関係しています。
人間の耳は、大きな音や特定の周波数帯域の音が鳴っていると、それよりも小さな音や隣接する周波数帯域の音を聞き取りにくくなる性質があります。これをマスキング効果と呼びます。
EQで特定の帯域を過度にブーストすると、その帯域が他の帯域をマスキングし、結果としてミックス全体のバランスが崩れ、「痩せた」印象を与えてしまうことがあります。
2. Q値(帯域幅)の調整不足
EQには、どのくらいの「幅」で周波数帯を調整するかを決めるQ値(Quality Factor)というパラメーターがあります。
- Q値が広い(低い): 広範囲の周波数帯に影響を与える
- Q値が狭い(高い): 狭い範囲の周波数帯にのみ影響を与える
もし、Q値が広すぎる状態で不要な周波数帯を大きくカット(削る)してしまうと、本来残しておきたい音の成分や倍音まで一緒に削り取ってしまうことがあります。
これにより、音の密度や深みが失われ、結果的に音が「痩せて」聞こえてしまうのです。
逆に、Q値が狭すぎる状態で大きくブーストすると、特定の周波数だけが強調され、ピーキーで不自然な音になってしまうこともあります。
3. 位相の問題
これは少し専門的になりますが、EQは特定の周波数帯を調整する際に、その周波数帯の位相(音の波形のタイミング)をわずかにずらす特性を持っています。
特に、急峻なスロープ(カットやブーストの傾きが急な設定)や、複数のEQを複雑に組み合わせた場合、特定の周波数で位相が大きくずれることがあります。
この位相のずれが、複数の楽器が鳴っているミックスの中で互いに打ち消し合ったり、特定の成分が希薄になったりする原因となり、音の厚みやパンチ感が失われる、いわゆる「音痩せ」につながることがあるのです。
「引き算」から始めるEQの判断軸
EQで音が痩せてしまうメカニズムを理解したところで、次に「どう考えれば良いか」という判断の軸を身につけましょう。
多くの初心者が陥りやすい失敗は、「音を良くしたい=ブーストする」という考え方に偏ってしまうことです。しかし、プロの現場では真逆の考え方が基本です。
失敗例:足し算EQで音が痩せるパターン
「ボーカルがもっとクリアに聞こえてほしいから、高音域をブースト!」「ベースにもっと迫力が欲しいから、低音域をブースト!」
このような考え方で各トラックをブーストしまくると、どうなるでしょうか?
- それぞれの楽器が、自分の主張したい帯域で周波数の競合を起こし、互いにマスキングし合う
- ミックス全体の音量が不必要に大きくなり、ダイナミックレンジが狭くなる
- 結果として、音が濁り、特定の帯域が強調されすぎて不自然に聞こえ、全体として「痩せた」印象になる
まるで、みんなが同時に大声で話しているような状態ですね。せっかくそれぞれの音に良い成分があっても、聞き分けられなくなってしまいます。
成功例:引き算EQで音がクリアになるパターン
プロの現場では、「音を足す前に、まず引く」という考え方が非常に重要視されます。
それぞれの楽器が持つ「不要な周波数帯」や「他の楽器の邪魔になっている周波数帯」を丁寧にカットしていくことで、必要な音の成分が自然と際立ち、ミックス全体がクリアになります。
| EQの考え方 | 目的 | 結果 |
|---|---|---|
| 足し算(ブースト) | 音を強調したい | 周波数競合、音痩せ、不自然さ |
| 引き算(カット) | 不要な成分を除去、他の音を際立たせる | クリアな音像、各楽器の分離感向上 |
この「引き算のEQ」が、音が痩せるのを防ぎ、自然で力強いサウンドを作るための判断の軸となります。
今日からできる!音を壊さずに整える実践的EQアプローチ
それでは、具体的なEQのアプローチをステップバイステップでご紹介します。今日からあなたのDAWで試してみてください。
ステップ1:まずは「ローカット」から始める
ミックスの濁りや音痩せを防ぐ最初のステップは、各トラックから不要な低音をカットすることです。これを「ローカット」または「ハイパスフィルター」と呼びます。
多くの楽器には、人間の耳ではほとんど聞こえない、しかしミックス全体の濁りの原因となる超低音域が含まれています。これらをカットすることで、ミックスに空間とクリアさが生まれます。
具体的な設定例
- ボーカル: 80Hz〜120Hz以下の帯域をスロープ(12dB/oct〜24dB/oct)でカットします。
- ギター(クリーン): 100Hz〜150Hz以下の帯域をカット。
- ドラムのオーバーヘッド: 200Hz以下の帯域をカット。
これらの数値はあくまで目安です。トラックをソロで聴きながら、音が痩せすぎない範囲で少しずつカットポイントを上げてみましょう。
そして、必ずミックス全体で聴いて、濁りが減り、他の低音楽器(ベースやキック)がクリアに聞こえるかを確認してください。
失敗パターンと回避方法
カットしすぎると、音が軽くなりすぎてしまったり、存在感がなくなったりすることがあります。
回避するためには、ミックス全体で聴きながら、音の密度や厚みが失われない範囲で慎重にカットポイントとスロープを設定するのがコツです。
ステップ2:「スウィープテクニック」で問題のある周波数帯を探す
次に、耳障りな音や不要な響きを見つけてカットするテクニックです。プロの現場でも頻繁に使われる方法で、「スウィープテクニック」と呼ばれています。
具体的な手順
- EQのQ値を狭く設定します(例: 5〜10程度)。
- ゲインを大きくブーストします(例: +6dB〜+9dB程度)。
- そのブーストした帯域を、低い周波数から高い周波数へゆっくりと動かしていきます。
- 耳障りな音や、不快に感じる響き、共鳴音などが聞こえるポイントを探します。
- 問題の周波数帯が見つかったら、ブーストしたゲインを元に戻し、その帯域を適切な量だけカットします(例: -3dB〜-6dB程度)。
この作業を複数の帯域で行い、各トラックから不要な成分を削っていきます。例えば、ギターの「こもり」は200Hz〜400Hzあたり、ボーカルの「鼻づまり感」は500Hz〜1kHzあたりで見つかることが多いです。
プロの現場での実例
実際の制作現場では、このスウィープテクニックを使って、各楽器が「自分の居場所」を持つように調整します。
例えば、ボーカルのメイン帯域(1kHz〜4kHz)に被っているギターやシンセのその帯域を少しカットすることで、ボーカルがミックスの中に自然と「浮かび上がってくる」ように聞こえることがあります。
これは、ボーカルをブーストするよりも、はるかに自然で音痩せしない方法です。
ステップ3:「足し算」は最小限に、目的を明確に
「引き算のEQ」でミックスがクリアになったら、それでも足りない部分がある場合に限り、最小限のブーストを行います。
大切なのは、「何を改善したいか」という目的を明確にすることです。
具体的な設定例
- ボーカルの明瞭度: 2kHz〜5kHzあたりを+1dB〜+3dB程度ブースト。
- スネアのアタック感: 3kHz〜5kHzあたりを+2dB程度ブースト。
- シンバルのきらびやかさ: 8kHz〜12kHzあたりを+1dB〜+2dB程度ブースト。
ブーストする際は、必ずQ値を適切に調整し、広範囲に影響を与えすぎないように注意しましょう。そして、少しブーストしたら、必ずミックス全体で聴いて、他の楽器とのバランスを確認してください。
失敗パターンと回避方法
「なんとなく」音が足りないからとブーストしてしまうと、再び周波数の競合や音痩せの原因になります。
回避するためには、ブーストする前に「この音は本当にこの帯域が必要か?」「他の音を邪魔していないか?」と自問自答することが重要です。
まとめ:EQで音を壊さず、魅力的なサウンドを作るために
EQで音が痩せてしまうという悩みは、多くのDTM/宅録ユーザーが経験する壁です。しかし、そのメカニズムを理解し、正しいアプローチを身につければ、必ず乗り越えることができます。
この記事でご紹介したEQの本質的な考え方と実践的なテクニックをまとめると、以下の3つのポイントが重要です。
- EQで音が痩せるのは、相対的なバランスの変化やマスキング効果、時には位相の問題が原因です。
- 基本は「引き算のEQ」から始めましょう。不要な帯域をカットすることで、必要な音が自然と際立ちます。
- 「ローカット」と「スウィープテクニック」を駆使して問題のある周波数帯を見つけ、ミックス全体でバランスを調整することが成功への鍵です。
今日からあなたのDAWで、これらのEQテクニックをぜひ試してみてください。一つ一つの音に耳を傾け、丁寧に調整することで、あなたのミックスはきっと、よりクリアで力強く、そして自然なサウンドへと進化するはずです。

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